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脳梗塞はさまざまな原因でおこります
山梨大学大学院総合研究部医学域内科学講座神経内科教室 教授 上野 祐司
超高齢社会を迎えている本邦では、脳卒中の患者さんは118万人とも言われています。中でも血管がつまる脳梗塞は脳卒中の約7割を占めます。生活習慣病である高血圧、糖尿病、脂質異常、喫煙などにより脳の血管の動脈硬化が引き金となり、ラクナ梗塞やアテローム血栓性脳梗塞をおこします。また、心房細動や、心筋梗塞により心臓の左心室の動きが弱くなることで心臓に血栓ができ、それが脳に飛んで重症な脳梗塞をおこす心原性脳塞栓症があります。このように脳梗塞の原因として脳血管の動脈硬化や心房細動などが挙げられます。しかし、それ以外にも脳梗塞の原因は少なくありません。
- がん…がん患者さん(特に進行がん)は脳梗塞を発症するリスクが高いと報告されています。がん細胞から産生される様々な物質により血が固まりやすくなり、脳梗塞がおこります。心臓の弁に疣贅(ゆうぜい)を形成する場合もあります。
- 大動脈原性脳塞栓症…心臓から出る大動脈は弓状に曲がりますが、そこから脳に行く血管の枝が出ます。大動脈弓部は非常に動脈硬化(プラーク)が起こりやすい場所です。そのプラークが壊れたり、そこに血の塊(血栓)ができたものが脳へ飛び脳梗塞を起こします。
- 脳動脈解離…若年者に多く何らかの誘因により脳動脈の血管壁が裂け、そこにできた血栓が脳梗塞を起こします。頭痛や首の痛みを伴うことがあります。動脈瘤やくも膜下出血を呈する場合があるため注意が必要です。
- 卵円孔開存(らんえんこうかいぞん)…心臓の右心房から左心房へ血液を流すために開いている孔(穴)が、生後も開存していている状態をいいます。足の静脈にできた血栓がこの穴を通って脳梗塞をおこすことを奇異性脳塞栓症といいます。私が以前調査した研究では脳梗塞患者の約20人に1人がこのタイプの脳梗塞であり、決して稀ではないと考えられます。
- 抗リン脂質抗体症候群…抗リン脂質抗体とよばれる自己抗体ができることによって血液が固まりやすくなり、脳梗塞やさまざまな血栓の病気、習慣性流産をきたす自己免疫性疾患です。
- 骨髄増殖性腫瘍…本態性血小板血症や真性多血症という血小板や赤血球が異常に増加する病気で脳梗塞をおこすことがあります。JAK2という遺伝子の異常が原因となることがあります。
脳梗塞の再発を予防する上で適切な抗血栓薬(血をサラサラにするお薬)を選ぶかが大切であり、そのために脳梗塞の原因を突き止めることが重要と思います。