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スポーツと月経
山梨大学医学部附属病院 産婦人科 助教 深澤 宏子
いよいよ東京オリンピックが1年後に近づいてきました。スポーツをより身近に感じる機会が増えてきて楽しみです。
さて、皆さんは「女性アスリートの三主徴」という言葉を知っていますか。2007年にアメリカスポーツ医学会が定義したもので、女性アスリートの健康管理上の問題点である1.利用可能エネルギー不足、2.無月経(生理がこない)、3.骨粗鬆症の3つを指します。これらは継続的な激しい運動トレーニングが誘因となり、互いに関連して女性アスリートの健康に大きな影を落とします。オリンピックを目指すようなトップアスリートの問題と思っているかもしれませんが、部活動に一生懸命取り組んでいる中学生や高校生でも十分に起こりえることなので、身近な話として捉えていただきたいと思います。
利用可能エネルギー不足とは、運動に見合ったエネルギーを摂取できていない状況のことです。その状況が長く続けば、やがて無月経や若年でも骨塩の低下が生じます。思春期の女子、つまり11歳から14歳くらいは骨密度の年間増加率が最も大きく、20歳頃に骨量はピークを迎えます。この骨形成期に十分なカルシウムの摂取と適切な運動負荷、順調な月経が生じる女性ホルモンがあれば最大の骨量を獲得できるのです。この大切な時期に、「記録を出せるのは今だから無月経でもいいや」と無月経となる状況を放置すれば、エネルギー不足からくる無月経=低女性ホルモン状態から骨粗鬆症、やがては疲労骨折に至る可能性もあり、競技を継続できず大切な時間を無駄にすることになるかもしれません。また、獲得できる骨量が少なければ、将来的な骨粗鬆症の危険も高まります。さらに、長期の無月経は、将来の妊孕性(にんようせい=妊娠する力)に関わる危険もあり、放置してはいけません。
中学生や高校生では、練習量や摂取エネルギーなど自分で決めることはなかなかできないでしょうし、月経の異常を相談するなどもっと難しいでしょう。指導される方や親御さんたちも注意していただきたいところです。もし月経が来ない状態が3カ月以上続く場合や15歳でも初経発来しない場合は、産婦人科を受診して相談することをお勧めいたします。
人生の中で、競技スポーツに打ち込めるのはとても限られた期間しかありませんし、それが貴重な経験であることも確かです。しかし、その先に長い人生が続くことを考え、自分の体としっかり相談しながら悔いのない競技生活を送っていただきたいと思います。