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急にできた「ほくろ?」にご用心
山梨大学医学部附属病院 皮膚科 助教 大沼 毅紘
皮膚科の外来の診察室には、日々さまざまな患者さんが受診されます。その中で、時に「先生、急にほくろができました。」とおっしゃって来院される方がいらっしゃいます。実際に、その場所を診察させていただくと、確かに黒いほくろのようなものがあります。ほくろに似た皮膚癌などもあり注意は必要ですが、ほくろや皮膚癌が急に(1日や2日で)できることは一般的にはありません。そのほくろのようなものの根本を注意してよく診察してみると、それがほくろではなくマダニであることが分かります。
マダニは野山や草むらに多く生息し春から秋にかけて活動が盛んになります。ヒトや動物に取りつく時、皮膚にしっかりと口器を突き刺し数日間にわたって吸血します。そのため逆立ちしたような状態で皮膚に突き刺さっています。なお、マダニが皮膚に口着する際には、痛みなどの自覚症状はほとんどありません。初めは小さい(5mm程度)マダニですが、吸血することで大きくなる(1.5cm程度)とまさにほくろのような見た目になります。
マダニを無理にむしり取ると口器が残存し、異物として体内に残存してしまう場合やマダニの体液を逆流させてしまう危険性もあります。そのため、マダニに咬まれた際には無理にむしり取らずに医療機関を受診してください。口着してから比較的早期の場合には、特殊な器具でマダニを除去できることもありますが、時間が経過し口器が皮膚に固着している場合には、局所麻酔をした上での切除が必要になる場合もあります。
また、マダニの中には細菌やウィルスの他、リケッチアといわれる病原体を持っているものがあり、それらの病原体により重症熱性血小板減少症候群、日本紅斑熱、ライム病、回帰熱といった様々な感染症を起こす危険性があります。おおよその潜伏期間は2週間程度であり、その間に発熱や嘔気、下痢などの消化器症状、咬まれた部位の赤みの拡大や全身の皮疹の出現などがあった場合には、それらの感染症に対する治療が必要になります。
マダニに咬まれないための予防法としては、肌の露出を少なくすることが重要です。そのため、野山や草むらに入るときは次のような注意が必要です。(1)帽子や手袋を着用し、首にタオルを巻く。(2)マダニの付着を確認しやすくするために、明るい色調の長袖、長ズボンを履く。(3)シャツの裾はズボンの中に、ズボンの裾は靴下や長靴の中に入れる。(4)サンダルを避け、足を完全に覆う靴を履く。その他、屋外活動の後は入浴し、マダニに咬まれていないか確認することも重要です。
これからの時期、農作業やレジャーで野山や草むらに入る際には「急にできたほくろ」にぜひご注意ください。