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加齢と不妊
山梨大学医学部附属病院生殖医療センター長 笠井剛(2015年8月執筆)
40代後半の芸能人のかたが妊娠したりすると、週刊誌などをにぎわせることが多いので、一般に40代でも普通に妊娠できると思いがちです。実際のところ、40代で妊娠できないわけではないのですが、妊娠できる人の割合は少なく、妊娠しても流産してしまうことも少なくありません。
最近は少子化、晩産化とよくいわれています。昭和60年の分娩数は約140万人で、分娩の主体は20代から30代でした。現在、平成26年(2014年)の分娩数は約103万人で、妊娠・分娩の主体は30代になっており、昭和60年代に比べて30代後半、40代の分娩が増加しています。お子さんを望まれる世代も、同様に高齢化しています。
卵子の老化により妊娠しにくくなっているというNHKのクローズアップ現代という番組は、衝撃的であったと思います。患者さんの多くが、まさか自分が妊娠しにくいなんてということは、結婚当初考えもしなかったと思います。卵子の老化は、誰にでも訪れてきます。具体的には、37歳を過ぎたあたりから、急速に原始卵胞の数は減ってきます。また、卵子の染色体変異も増えてきますので、流産も多くなってしまいます。10年前に、「妊活」を始めていたら、自然に妊娠している可能性が高いと思われる患者さんはいっぱいいます。
一般に20代から35歳ぐらいまでが最も妊娠しやすく、かつ分娩も難産になりにくいといわれています。
しかしながら、今の日本の社会の仕組みでは、早い年齢での妊娠・分娩・子育ては容易なものではなくなってきています。妊娠する予定があり、35歳をこえている場合は、早期の妊娠を考えた方が良いと思われます。
また、喫煙は原始卵胞を減らしていくので、一般に閉経が2、3年早くなってしまうといわれていますので、将来妊娠する予定のあるかたは、喫煙はするべきではありません。原始卵胞が少なくなってからでは、遅いのです。また、喫煙は異所性妊娠(子宮外妊娠)の頻度を増加させますので、妊娠したので禁煙したが、異所性妊娠になってしまったという患者さんも少なくありません。妊娠中の喫煙は、低出生時体重児の原因といわれていますので、喫煙者の場合、妊娠後禁煙されるかたが多いと思われますが、是非、妊娠前より禁煙されることを勧めます。
また、不妊の原因は、男性も女性も同じ頻度です。なかなか妊娠しないなと思ったら、早目に精液検査を受けてみることも重要です。お近くの産婦人科に気軽にご相談ください。