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うちの子の血液型を調べてください
山梨大学医学部附属病院小児科診療助教 渡邊敦(2016年2月執筆)
小児科外来でお母さんからお願いされることがあります。日本では多くの大人が自分の血液型を子供の頃に調べて知っています。ABO式血液型占いも流行するはずですね。しかし、最近の赤ちゃんは必ずしも血液型を調べません。性格を予想したかったのにな、とか、輸血の時にどうするのかな?なんて思わないでくださいね。そこにはちゃんと理由があるのです。
血液型を判定するときに、2つの検査が行われます。ひとつは、赤血球表面の「A抗原」と「B抗原」を調べるテスト。もうひとつは、それぞれの抗原に対する「A抗体」と「B抗体」を調べるテスト。専門的には表試験・裏試験と言います。対応する抗原と抗体はくっついて赤血球を壊します。予防接種をすると抗体が作られて免疫力が上がるのと同じ理屈です。
血液型が「A型」の人は赤血球の表面にA抗原が現れていて、血液の中にはB抗体をもっています。もし、血液型がA型の人がA抗体をもっていたら…
そうです、体の中で赤血球は壊されてしまいます。ですから赤血球の表面にはA抗原、抗体はB抗体。「B型」の人はその逆です。赤血球の表面にはB抗原。抗体はA抗体。
じゃあ「AB型」は?赤血球の表面にはA抗原とB抗原が両方とも出ています。そして抗体はどちらももっていないのです。
「O型」は?赤血球の表面にはA抗原もB抗原も出ていなくて、抗体はA抗体とB抗体のどちらももっているということになります。
しかし生まれたての赤ちゃんは、十分に赤血球の表面にA抗原やB抗原が出ていないことがあります。また、十分にA抗体やB抗体を作っていないことがあります。ですから、検査をしても絶対にO型ですよ、と言い切ることは難しく、新生児期の血液型は最近では必要がなければ調べません。
そしてもうひとつ。事故にあって輸血が必要になった時、ご両親が「この子はA型です。早くA型の血を輸血してください」と言ったとします。もし本当はA型の人にAB型の赤血球を輸血したらどうなるでしょう。A型の人はB抗体を持っています。AB型の赤血球のB抗原と反応して赤血球が突然一気に壊れると、その中身の成分によって生命は危険な状態に陥ります。救命のために行った輸血が命を奪うことになりかねない。これを「異型輸血」と言います。この異型輸血を避けるため、輸血の前にはABO式血液型を判定してから実施します。
このように考えると、赤ちゃんに限らず普段から血液型を知っている必要はないですよね。しかも、一般的に「血液型」というと輸血に関係するABO式やRh式が有名ですがさらに詳細には数百の分類が提唱されています。これらを組み合わせると、一兆通りになるとも言われていて、人類の数より多くては占いも成り立ちません。